* 当事業は、支援学生の真摯なご意見をそのままお届けするため、本記事を公開しております。
Interview No.77 松本 洵
理学院
趣味:趣味の定義がよくわからないが,研究以外の時間はX, Instagram, YouTubeのどれかを常に見ている.
休日の過ごし方:ダラダラ研究.
東京科学大学の好きなところ:山田光太郎先生がいるところ(2026年3月で退職).
研究概要 / Research Outline
数学における微分幾何学,特にユークリッド空間内の極小曲面をはじめとするWeierstrass型の複素表現公式を持つ曲面の大域的な性質について研究している.
在学中は,アファイン極大曲面という,アファイン微分幾何学における極小曲面の仲間に関する論文を2本,極小曲面のGauss写像の値分布論に関する論文を1本執筆.

Costaの極小曲面 カテノイド型アファイン極大面(松本)
義務履行の形骸化:次世代フロントランナー育成の矛盾
Science Tokyo SPRINGにおける支援制度は,「総合知と癒しの次世代フロントランナーとして,現代社会が直面する諸問題を解決し,地球上の全ての構成員の福祉と幸福に貢献する意思を有する者」を支援対象としている .また,募集案内の冒頭では「主体的に自らのキャリアを選択することを希望する者」を求めている .しかし,実際のプログラム運用において支援学生に課される「義務」の数々は,こうした理念と著しく矛盾しており,博士課程の学生に過度な心理的負荷と研究成果の停滞につながり得ると感じる.
第一に,研究活動の特質を無視した画一的なスケジュール拘束とタスクの強要である.支援学生には「越境交流ワークショップ」への全員参加が必須とされ,不参加は義務不履行とみなされる .これに加え,その他の関連イベントへの参加やプログラム指定の講義履修が重なることで,学生の時間は大きく奪われる.特に,科目履修において筆者の履修した講義はすべて「出席必須」となっていた.数学や理論物理学のような理論系研究と,生命科学などの実験系研究では,時間の使い方や「研究が乗っている時期」の性質が全く異なる.にもかかわらず,全分野の学生に対して画一的な日時への出席を強要することは,多様なバックグラウンドを持つ学生を支援するという「越境型」のコンセプト自体と矛盾している.高度な専門性が求められる研究は,途切れることのない深い思考の没入や実験を長期間にわたって維持する必要がある.数ヶ月先のスケジュールを強制的に固定化させ,細切れのイベント参加や講義履修によって研究の連続性を断ち切ることは,トップレベルの研究成果を育む環境を運営側自らが破壊しているに等しい.加えて,研究室のコアタイムやセミナー,学会参加の多い博士課程の学生に対する「出席必須」の講義は,制度設計側が学生の研究についてどのような考えを持っているのか,甚だ疑問である.
第二に,ペナルティによる統制と形式主義がもたらす徒労感である.ポスター発表等を通じて「汎用力育成の成果」を示し,異分野の学生との対話を通じて学びを深めるという目的自体は有意義かもしれない .しかし,それを「義務」として強制し,「終了後に送付されるWebフォームから必ず提出する」「期限までに提出がない場合は,義務不履行とする」といったペナルティベースの厳格な管理体制を敷いている.Webフォームを提出しさえすれば「義務履行(=交流が達成された)」とみなされるシステムは,運営側が「越境交流の質」を評価することを事実上放棄し,単なる「出席のカウント」へと矮小化していることを意味する.形だけの報告で育成される汎用力とは一体何なのだろうか.本来,知的な「越境」や他分野への関心は,学生自身の自発的な探求心から生じるべきものではないか.
「主体的なキャリア選択」や「次世代フロントランナーの育成」を標榜しながら,その実態は学生を細かなルールの管理下に置き,義務の履行状況で統制しようとするものである.こうした強圧的で形式主義的な制度設計は,博士課程学生の限られた認知リソースを不毛な事務作業と形式的なイベント消化へと振り向けさせ,本来の研究に対する熱量と心理的安全性を削ぐ結果にしかならない.卓越した研究力の向上という本事業の目的達成において,現在の硬直化した義務履行のあり方は極めて不適切であると考えざるを得ない.
メッセージ / Message
本制度の経済的支援は魅力的であり,成果の確約されていない研究に対しての支援には心から感謝している.しかし,研究時間を奪う画一的なスケジュール,ペナルティを伴う管理体制,形式化された義務履行.私たちの本分は自身の探求心に基づいて研究することであり,それを通じて人類の知の範囲を広げていくことであるはずだ.本制度の目的を自身で考え,良いものは良い,悪いものは悪いと学生自身が考え,発信していくことが重要であると考える.